順調なのに心が折れそうになる日――訪問マッサージの現場より
「先生、今日は楽だったよ」
患者さんのそんな一言を聞くと、思わず胸をなで下ろす。
訪問マッサージをやっていて、そういう瞬間は本当に嬉しいものです。
でも、現場ってそんな甘いことばかりじゃない。
見えないストレスは、突然やってくる
患者さんは施術中、穏やかに目を閉じている。
経過も悪くない。
「よし、今日もいい感じだ」
…そう思った次の瞬間、頭上にいきなり雷が落ちるような言葉が飛んできます。
「全然良くなってるように見えないんだけど?」
「もっと他の方法とかないんですか?」
「○○さん(他の職種)は違うこと言ってましたよ?」
もうね、言われた瞬間は本当にドキッとするんです。
自分のやってきたことを全部否定されたような気がして、
心の中で「ガーン」と擬音が響く。
その言葉、実は“SOS”かもしれない
でもね、最近気づいたんです。
こうした言葉は、決して敵意だけじゃないんだと。
むしろ相手の不安や焦りが、言葉になって飛び出してきていることが多い。
- 患者さんは「もっと動けるようになりたい」という焦り
- ご家族は「良くなってほしい」という必死の願い
- ケアマネや他の職種は「自分の責任も大きい」というプレッシャー
だから、表面の言葉だけを真に受けすぎると、こちらの心が潰れてしまう。
振り回されず、でも突き放さないために
じゃあ、どうやって心を守りつつ、現場をうまく回すか?
私が今も模索しながら実践しているのは、次の3つです。
① すぐに反論せず、ワンクッション置く
カッとなって「いや、やってます!」と言い返すと、空気が一瞬で硬直します。
だからまずは、相手の気持ちを一度受け止めるひと言を置く。
- 「そう感じられるのも無理はないですよね」
- 「確かに心配になりますよね」
それだけで、場が少し和らぎます。
② 抽象論を減らし、見たままを伝える
「良くなってます」だけじゃ、相手は不安のまま。
現場で感じた具体的な変化を伝えると、信頼度がグッと上がります。
- 「右膝の動きが、先週より少し大きくなっています」
- 「今日は肌色がよくて、血流が良い感じです」
専門家としての目線を出すと、相手の表情が変わるのを感じます。
③ 相手に「役割」を渡す
口出しが多い人ほど、「自分も何かしたい」という気持ちが強い。
その想いを上手に活かせば、現場はずっとラクになります。
- 「普段どんな動きが大変そうか教えてもらえると助かります」
- 「一緒に動きを確認していただけると安心です」
協力者に変わってもらえた瞬間は、本当に救われます。
主導権は渡さない
ただし、何でも相手の言いなりになる必要はありません。
私たちは専門家ですから。
相手の想いに耳を傾けつつも、
「ここは譲れない」というラインをきちんと持つ。
それが結局、信頼を築く一番の近道だと実感しています。
最後に
言葉が刺さる日は、正直あります。
「また言われた…」と夜、布団の中でため息をつく日も。
でも、その言葉の奥には、必死に状況を良くしようとしている誰かの想いが隠れている。
そう思うだけで、少しだけ心が軽くなる気がします。
振り回されず、でも置き去りにもせず。
このバランスを探す日々が、訪問マッサージという仕事の深みであり、面白さなのかもしれません。